交通事故で必要となる弁護士費用特約のメリットと使い方
1 弁護士費用特約によって費用的なメリットがある
交通事故に遭った場合、賠償額の増額をするためや、示談交渉から受けるストレスを回避するために、弁護士に委任することを考えている方は多いはずです。
そのような場合にネックになるのが、費用の問題です。しかし、その場合、弁護士費用特約を利用すると大きなメリットが得られます。
今回は、弁護士費用特約について解説します。
2 弁護士に委任するとかかる費用
弁護士に委任した場合、弁護士報酬および実費がかかります。
弁護士報酬の内訳は、主に着手金と報酬から成っています。
着手金とは、交通事故事件を弁護士に委任したときに支払う前払金のことであり、報酬は、事件終了後に支払う金額のことです。
これらは、着手金は無料としている弁護士もいますが、標準的には上記のとおりとなります。
これ加えて、実費とは、弁護士が実際に活動する際に、文書を作成する際にコピーをしたり、交通事故証明書等の公的機関から書面を取り付けたりする際に納付する手数料などの費用をいいます。
以上のとおり、弁護士に委任した場合には上記の弁護士報酬と実費がかかります。
3 弁護士費用特約付き保険とは
弁護士報酬および実費は誰が負担するのかといえば、事件を弁護士に委任する被害者となります。
判決で弁護士費用相当額を加害者に支払わせることはできますが、判決で認められた額(裁判所に請求する損害額の1割程度)のみになり、支払うべき弁護士報酬および実費の額と必ずしも一致しません。
しかし、これでは、被害者の経済的負担を考えると、弁護士に委任することを躊躇し、適正な交通事故事件の解決ができないかもしれません。
そこで、保険会社において、弁護士報酬および実費について保険で賄う保険が設けられています。
これを弁護士特約付き保険といいます(以下、「弁護士費用特約」といいます)。
4 弁護士費用特約の内容
以下の内容は、一般的な弁護士費用特約とさせていただきます。具体的な詳細は各種保険会社にお問い合わせください。
まず、弁護士費用特約で補償される弁護士費用は、弁護士報酬、実費および法律相談料です。
裁判費用も実費の一部として補償されます。
補償額の上限は、弁護士費用および実費の額が300万円までとなっております。
次に、保険契約者本人、その配偶者、その子(以下「保険契約者等」といいます。)が引き起こした事故を対象としています。
さらに、補償されない場合として
・保険契約者等の故意または重大な過失に関する事故
・無免許運転による事故
・保険契約者等がアルコール・麻薬等で正常な運転ができない状態で生じた事故
などが挙げられます。
加えて、交通事故発生時に一定の書面で提出すること、弁護士への委任を希望する場合には保険会社に連絡することが義務付けられています。
5 弁護士費用特約のメリット
⑴ 弁護士費用の負担がなくなる
本来弁護士に委任するためには弁護士報酬および実費の負担を余儀なくされますが、弁護士費用特約を利用することによって、その費用の負担から解放されます。
特に重篤な人身傷害が生じているような事件では、着手金のみでも無視できない金額になりますので、その経済的な負担から解放されるというのは極めて大きいメリットです。
⑵ 賠償の増額が望める
弁護士費用特約を用いて弁護士に委任することによって、賠償額の増額が望めます。
交通事故の損害賠償の基準は、大きく分けて以下の3つがあります。
まず、自賠責保険の支払基準である自賠基準、次に任意保険会社の保険金支払の基準となる任意基準、最後に裁判で請求する際に用いる裁判基準です。
賠償額は、自賠基準→任意基準→裁判基準の順に多額となります。
保険会社が示談交渉をする際に用いるのは自賠基準または任意基準で、任意基準を上限として提示するのが通常です。
一方、弁護士に委任した場合、保険会社との交渉が決裂した場合には裁判所に訴訟提起をするのが通常ですので、これを見越して裁判基準で提示するのが通常です。
例えば、後遺障害慰謝料の額、すなわち、症状固定(治療の継続しても改善が見込めない状態)時期以降においても残存する症状(後遺障害)を受傷したことによる慰謝料については、むち打ち症状で問題となる後遺障害等級第14級の場合では、自賠基準では32万円ですが、裁判基準では110万円とされており、任意基準では自賠基準と裁判基準の中間とされています。
このような賠償の基準により賠償額が大きく異なるため、どの基準を用いて賠償額を算定するかが重要となります。
以上のとおり、弁護士は、裁判基準を用いて賠償額を算定し、保険会社に請求するため、賠償額の大幅アップが望めます。
⑶ 示談交渉からのストレスから解放される
示談交渉を被害者個人が行うことも可能ですが、ほとんどの方は法律知識や損害賠償実務に詳しくないので、交渉の見通しが立てにくく、また保険会社の意見に対し法律的に反論をしていくことはかなりの心理的なストレスになるものと予想されます。
交通事故の被害者としての交通事故に対する怒りがないはずはないのに、それに加えて、保険会社との交渉でさらにストレスを加えられることは、二次被害を招きかねません。
この点、弁護士に委任すると、あとは保険会社との交渉は基本的には弁護士が行い、被害者は弁護士から連絡を受け、事件の基本的な方針について弁護士と協議して決めるだけです。
このように、弁護士に事件を依頼するだけで、被害者の心理的なストレスは大きく改善されることになります。
⑷ もらい事故の示談交渉も任せられる
いわゆるもらい事故(典型的なのは停車中に追突された場合)の示談交渉を代わって行ってもらえることがあげられます。
すなわち、追突された場合のようなもらい事故の場合には、被害者側の過失割合がゼロということになります。この場合、被害者側の保険会社は、被害者に代わって加害者に対し保険金を支払うことはありませんので、いわゆる示談代行サービスに基づき被害者側の保険会社が被害者に代わって示談交渉を行うことはできません。
この場合には、被害者本人が示談交渉を行うか、または弁護士に委任するかです。
そして、弁護士に委任する場合には、弁護士報酬および実費の負担の問題が発生しますので、これらをカバーするために弁護士費用特約を用いることができるのです。
6 弁護士費用特約の使い方
⑴ 保険会社に連絡する
弁護士費用特約を用いて弁護士に依頼する場合には、依頼の前に保険会社の担当者に連絡をする必要があります。
その際、委任する弁護士が決まっていればよいのですが、決まっていない場合には、保険会社が弁護士を紹介してくれます。
大抵は、その保険会社の顧問弁護士です。
その場合に所定の書類を提出する場合がありますので、忘れずに提出してください。
⑵ 弁護士と打ち合わせをする
保険会社が選定した弁護士から連絡が来るので、あとはその弁護士と面談等の打ち合わせを行います。
そして、事件の概要を聞き取った上で、弁護士は被害者に委任の意思を確認します。
被害者がその弁護士に委任するといえば、弁護士は、委任状の提出を被害者に求めるとともに、面談の候補日を告げるなどの面談の日程を調整します。
弁護士は、委任状が到着次第、加害者または保険会社に対し受任通知を発送し、以後は本件についての交渉は全て弁護士が行うので、以後の連絡は弁護士あてにするように求めるように要請します。
その後、被害者との面談において、交通事故の具体的な状況を聞き取った書面を作成するので、被害者は事前に交通事故に関する資料(保険会社から送付された資料や、取得しているのであれば刑事記録などです)を準備し、面談日に弁護士に提出できるようにしておきます。
あとは、面談において、弁護士にその資料に基づいて交通事故の状況を説明します。
そして弁護士から大体の交通事故の処理の流れと解決までの時期の目安を告げられます。
弁護士は聞き取った内容を基礎として加害者または保険会社と交渉していきます。
⑶ 弁護士の変更も可能
不幸にも自分とは合わない弁護士であったり、交通事故事件の処理の進め方で弁護士と意見が対立してしまったりしたような場合には、弁護士を変更することができます。この場合には、弁護士を代えてほしい旨を保険会社に連絡し、所定の書面を提出します。
ただし、変更される弁護士は、加害者および保険会社に対し辞任通知を提出しますので、新しい弁護士から受任通知が送付されるまでの間は、被害者本人に対し、加害者または保険会社からの連絡がきます。
被害者はこの間は自分で対応することを余儀なくされます。
そして、引き継ぐ弁護士からしても、自分のあずかり知らないところで事件に関しどのような交渉が継続しているのか分かりませんので、早急に面談を行わせてほしいと要請されると思われます。
弁護士を変更するということは、変更自体は簡単ですが、事件の処理に大きな影響を与えますので、弁護士選びは慎重にされることをおすすめします。
また、新たな弁護士に委任する旨を保険会社に連絡することを忘れないようにしてください。
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