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弁護士法人心 海浜幕張法律事務所

危急時遺言とは|要件・書式・検認

  • 文責:所長 弁護士 羽藤英彰
  • 最終更新日:2024年1月7日

遺言書の作成というと、「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」をイメージする方が多いかと思います。

これらの一般的な遺言は、普通方式と呼ばれる作成方法ですが、これ以外にも「特別方式」という方法で遺言書を作成することができる場合があります。

今回は、特別方式による遺言の作成のうち「危急時遺言」の要件や作成の流れについてわかりやすく解説します。

1 危急時遺言とは?(民法976条1項)

⑴ 危急時遺言の概要

危急時遺言とは、遺言者に生命の危険が迫っているという特殊な状況で作成される特別方式による遺言のことをいいます。

このような危険な状況下では、民法が規定する厳格な要件に従った遺言書の作成は困難であることから、自筆証書遺言や公正証書遺言といった普通方式による遺言と比べて大幅に要件が緩和されているという特徴があります。

危急時遺言は、普通方式の遺言に比べると実際に利用される方はほとんどいません。

それは、危急時遺言の存在を知っている方が少ないこと、緊急時に複数の証人を確保することが難しいことなどの理由が挙げられます。

しかし、危急時遺言は、緊急事態に陥ったときに遺言者の希望を叶えることができる手段ですので、ご自身や家族にもしものことがあったときに備えて知識として理解しておくと良いでしょう。

⑵ 危急時遺言の種類

危急時遺言には、「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」の2種類があります。以下では、それぞれの遺言の詳しい内容について説明します。

① 一般危急時遺言

一般危急時遺言とは、病気などを理由として生命の危機が迫っている状況で作成される遺言のことをいいます。

一般的に利用される自筆証書遺言では、遺言者自身が遺言内容の全文を自書することが要件とされていますが、危急時遺言の場合には、遺言者自身が自書することが困難であることから、遺言者から内容を聞いた証人が遺言書を作成することが認められています。

もっとも、遺言者が危急状態を脱した場合には、一般危急時遺言を残しておく実益がなくなります。

そのため、遺言者が危急状態を脱して普通方式の遺言を作成することができるようになったときから6か月生存した場合には、一般危急時遺言は当然に効力を失います(民法983条)。

この場合に、遺言者が遺言を残したいというときは、新たに自筆証書遺言や公正証書遺言といった普通方式の遺言をする必要があります。

② 難船危急時遺言

難船危急時遺言とは、乗船している船が遭難するなどして生命の危険が迫っている状況で作成される遺言のことをいい、船舶遭難者遺言ともいわれます。

難船危急時遺言も緊急時に作成される遺言ですので、一般危急時遺言と同様に普通方式の遺言に比べて遺言の作成要件が緩和されています。

特に、難船危急時遺言は、一般危急時遺言よりもさらに緊急の状況であるといえるため、一般危急時遺言よりも要件が緩和されているという特徴があります。

なお、難船危急時遺言も遺言者が普通方式の遺言をすることができるようになったときから6か月生存した場合には当然に効力を失います。

2 危急時遺言作成の要件

危急時遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

いずれも普通方式の遺言よりも大幅に作成要件が緩和されていることがわかります。

⑴ 一般危急時遺言の要件

一般危急時遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

① 遺言者が死亡の危急に迫られていること

一般危急時遺言を作成するためには、遺言者自身の状況として、遺言者が病気や事故によって生命の危険が差し迫っている状況、余命が幾ばくもなくすぐに遺言を作成しなければなくなってしまう危険がある状況などが必要です。

② 証人3人以上の立ち会いがあること

証人は誰でもなれるというわけではなく、以下に該当する人は証人になることができません(民法974条)。

  • 未成年者
  • 推定相続人、受遺者、それらの配偶者および直系血族
  • 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人

③ 遺言者が証人の1人に遺言の趣旨を口授すること

遺言者が遺言事項を証人に口頭で伝えます。

危急時にある遺言者は、言語能力に支障を来していることも多いため、口授があったといえるかどうかについては、後日争いになる可能性もあります。

④ 口授を受けた証人がその内容を筆記すること

口授を受けた証人は、その内容を書面化します。

自筆証書遺言のように自書は要件ではありませんので、パソコンで作成することも可能です。

⑤ 筆記した内容を遺言者と他の証人に読み聞かせまたは閲覧させること

証人が筆記した遺言書が遺言者の話した内容を正確に反映しているかどうかを確認するために、遺言者と他の証人にその内容を確認してもらいます。

⑥ 証人全員が署名押印すること

内容が正確であることが確認できたら証人全員が署名押印をします。この際に使う印鑑は実印に限られませんので、認印による押印でも問題ありません。

⑦ 家庭裁判所による確認

一般危急時遺言を作成した日から20日以内に、家庭裁判所に対して確認の審判の申立てをする必要があります。期限までに確認がなされなければ一般危急時遺言の効力は発生しません。

⑵ 難船危急時遺言の要件

難船危急時遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

① 船舶が遭難し遺言者が死亡の危急に迫られていること

難船危急時遺言を作成するためには、遺言者自身の状況として、船舶が遭難し、遺言者の生命に危険が迫っているという状況にあることが必要です。

② 証人2人以上の立ち会いがあること

証人の要件は、一般危急時遺言と同様ですが、船舶危急時遺言の場合には、証人は2人以上で足ります。

③ 遺言者が証人2人以上の前で口頭で遺言すること

口頭で遺言を行うのは、一般危急時遺言と同様です。

④ 証人がその趣旨を筆記すること

遺言を受けた証人が遺言の内容を書面化するのは、一般危急時遺言と同様です。

しかし、遭難中にその場での筆記は難しいため、遺言を記憶した証人が後に書面化すれば足ります。

⑤ 遺言者・他の証人への読み聞かせは不要

難船危急時遺言の際にはその場での読み聞かせは不要とされています。

⑥ 証人全員が署名押印すること

署名・押印については④と同様、後日書面化をする際に必要です。

⑦ 家庭裁判所による確認

一般危急時遺言の場合は20日以内に、家庭裁判所に対して確認の審判の申立てをする必要がありましたが、船舶危急時遺言の場合には、遅滞なく家庭裁判所に申立てをすれば足ります。

確認がなされなければ一般危急時遺言の効力は発生しません。

3 危急時遺言作成の流れ

危急時遺言を作成する場合には、以下のような流れで作成をします。

難船危急時遺言は極めて特殊な状況での遺言ですので、以下では、一般危急時遺言を例にして説明します。

⑴ 危急時遺言の作成

一般危急時遺言を作成は、遺言者が病気などで生命の危機が迫っている状況にある場合には、証人3人の立ち会いのもとで行います。

証人のうち1人が遺言内容の口授を受け、その内容を筆記し、遺言者および他の証人に読み聞かせるなどして内容の確認を行います。

内容の確認がとれた場合には、証人全員が署名押印をして一般危急時遺言を作成します。

⑵ 家庭裁判所に遺言確認の審判申立

危急時遺言は、遺言者が自書したものではなく、遺言者の署名押印もないことから、その遺言が遺言者の真意によるものであるかを慎重に判断する必要があります。

そのため、作成した一般危急時遺言は、遺言の日から20日以内に家庭裁判所に遺言の確認の審判を申し立てる必要があります。

遺言確認の審判は、遺言者が生存中は、遺言者の住所地の家庭裁判所に申立てをし、遺言者が死亡後は相続開始地の家庭裁判所に申立てを行います。

家庭裁判所は、遺言書に記載された内容が遺言者の真意によるものであるとの心証を得たときには、確認の審判をします。

家庭裁判所によって確認された遺言書は、遺言作成時にさかのぼって効力が生じます。

⑶ 家庭裁判所に検認の申立てをする

家庭裁判所により遺言確認の審判が出たとしても、それだけでは遺言の執行をすることができません。

遺言の執行をするためには、遺言者が死亡し、相続が開始した後に家庭裁判所に検認の申立をする必要があります。

4 遺言の作成はお気軽にご相談ください

危急時遺言は、普通方式の遺言よりも作成要件が緩和されているとはいえ、法律上の要件に従って作成しなければ無効な遺言になってしまうリスクがあります。

また、危急時遺言を作成した場合には、家庭裁判所の審判が必要になります。

家庭裁判所に当該遺言が遺言者の真意によるものであるとの心証を抱いてもらうためには、申立書の記載や立証方法などを工夫する必要があります。

遺言者の意思を確実に実現するためにも、危急時遺言作成の際は本記事を参考にしていただければと思います。

なお、「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」の作成を検討されている方については、作成から執行に至るまで、弁護士がサポート可能です。是非一度、当法人にご相談ください。

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